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金融サービス提供者である私たちの社会的役割

2019年5月22日、金融審議会市場ワーキング・グループより
「高齢化社会における資産形成・管理」報告書(案)が発表されました。

翌日の新聞紙上には、国が初めて公的年金だけでは望む生活水準に届かないリスクについて言及したとあって、
さまざまな論説が並び、またネット上ではそうした発表を国が公に行ったことに対する批判が溢れていました。

私は、その国の指針案ともいえる今回の発表のひと月前に、東京で行われた、金融庁と厚生労働省の実務担当者が講師を務める、ある勉強会に参加させていただいていたのですが、話の内容も、そして資料もその勉強会のプロジェクターに映し出されたものとほぼ同じものでした。

今回の報告書(案)の中で、私が特に注目したのは2点です。

もちろん、「公的年金だけでは望む生活水準に届かないリスク」についての言及が一つ目ですが、

その一方で、そうした自助努力を国民ひとりひとりに促す中で、多様な商品(金融)・サービスを個々人が自身の力のみで選ぶことについて、人によっては困難が伴うことも想定される、として、アドバイザーの充実(環境の整備及び育成)についても言及されていたことでした。

もともと大学を卒業し、信託銀行員として社会人をスタートした自分にとって、今回の報告書の中に記されていた、

「…個々人に的確なアドバイスができるアドバイザーの存在が重要である。現状では、その役割は主として本人に一番身近な金融機関などが担うことが想定されるが、業態ごとの商品・サービスが多様化しているため、単一の業態の金融サービス提供者が全ての商品・サービスを俯瞰したアドバイスを行うことには難しい面がある。」

という一文は、もはや自社の金融商品の紹介や販売といったポジショニングからのアドバイス及びコンサルティングだけではお客様(マーケット)を満足させられるサービスとは言えない!というメッセージとさえ感じ取れたのです。

今後、こうしたメッセージは、私たち国民ひとりひとりに今まで以上に議論の材料として発信されていくと思われますし、同時にアドバイスする側の淘汰がすでに始まっているのだよ、と、強くその自覚を促すようなメッセージとして受け取る必要があるのだと思いました。

今回の政府の発表は、そうした51ページにもおよぶレポートの「はじめに」の欄にその意図を垣間見れる文章がありました。
次回、私が出演予定のOBSラジオ「竹下健治の絶対損するものか!?」のコーナーの中でも、その政府の意図を素直に実践し、議論の材料にすべくリスナーの方にお届けしようと思います。

間違えても、だから資産運用の金融商品に飛びつけ!では、ないのです。まずその前にやるべきことがあり、そのやるべきことを飛ばして、金融商品を販売するような姿勢のアドバイスをすることがないように、自分自身を含め、全国の講演先でも業界の仲間の皆さんに伝えていこうと思います。

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以下、次回のラジオの原稿の一部です。(ラジオ原稿は私が書いています)

村津アナ:「今日はどんな話題でしょうか?」

竹下: 「毎年6月は、「住民税の話題」をお伝えしているのですが、今回は、先月5月22日に金融庁から発表された「高齢化 社会における資産形成・管理」報告書(案)の内容が、あまりにも衝撃的だったので、その内容について時間の許す限りお伝えしたいと思います」

北里さん:「竹下さん、金融庁が発表した、その「高齢化社会における資産形成・管理」報告書(案)というものは、いったいどんな報告書なんですか?」

竹下: 「わかりやすい言葉で言いますと、「人生100年時代に向けて、長い老後を暮らせる蓄えにあたる「資産寿命」をどう延ばすか?」という問題について国が初めてその指針案をまとめて発表したということなのです」

村津アナ:「「資産寿命をどう延ばすか?」という言葉がありましたが、それは、私たち国民に対しての呼びかけ的な意味があるのでしょうか?」

竹下: 「そうなのです。今、村津さんがおっしゃいましたが、この報告書案は、ある意味、国が、私たち国民ひとりひとりに対して、「働き盛りの現役期」、「定年退職前後」、「高齢期」の3つの時期ごとに、資産寿命の延ばし方の心構えを指摘しているという見方があり、それはある意味で国が年金などの公助の限界を認めて、私たち国民の「自助努力」を呼びかけた初の報告書だと言えると思います。実に51ページのレポートが発表されています」

村津アナ:「具体的にどんな内容になっているのでしょうか?」

竹下: 「レポートは私たちのくらしの中で、特に高齢化社会に向けた準備の現状報告から始まっているのですが、その前提として現在の社会環境についても触れられています。その上で、「平均寿命が延びる一方、少子化や非正規雇用の増加で、政府は年金支給額の維持が難しくなり、会社は退職金額を維持することが難しい」ということ。また、老後の生活費について、「かつてのモデルは成り立たなくなってきている」と報告書案は指摘しています。結果的に、私たち国民に、自助を呼びかけ、金融機関に対しても、国民のニーズに合うような金融サービス提供を求める内容になっています」

北里さん:「国が公式に、かつてのモデルが成り立たなくなってきているというメッセージを出しているとのことですが、たとえば、どれくらい足りないなどといった試算もされているのでしょうか?」

竹下: 「報告書案によると、年金だけが収入の無職高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)だと、家計収支は平均で月約5万円の赤字蓄えを取り崩しながら20~30年生きるとすれば、現状でも1300万~2千万円が必要になる。長寿化で、こうした蓄えはもっと多く必要になる。と報告されています」

村津アナ:「この報告書についての話題は、ネットでもずいぶんと取り上げられているということですが、この指針案について、かなりの批判があがっているようですね」

竹下: 「51ページにものぼる指針案の中で、具体的には24ページに、「公的年金だけでは望む生活水準に届かないリスク」という見出しで、具体的にはこう書かれています。『公的年金制度が多くの人にとって老後の収入の柱であり続けることは間違いないが、少子高齢化により働く世代が中長期的に縮小していく以上、年金の給付水準が今までと同等のものであると期待することは難しい。今後は、公的年金だけでは満足な生活水準に届かない可能性がある。年金受給額を含めて自分自身の状況を「見える化」して老後の収入が足りないと思われるのであれば、各々の状況に応じて、就労継続の模索、自らの支出の再点検・削減、そして保有する資産を活用した資産形成・運用といった「自助」の充実を行っていく必要があるといえる。』」

北里さん:「ほんと、明確に書かれていて、いよいよこんなレポートでも、日頃竹下さんがこのコーナーでおっしゃってきた、まさに「自助努力」をしてください!と発表されたんですね」

竹下: 「国が発表したこの指針案はネットで批判を浴びているようで、Twitterなどでは、「何のために高い年金や税金を払わされているのか」「年金に頼らず自助をと言うなら、年金徴収をやめてほしい」「資産形成を促すなら、給料が増えるようにすべき」「教育費を無料にすべき」「非正規雇用で資産形成できない人のことを考えていない」などとさまざまな側面から批判が殺到しているようです」

村津アナ:「今の批判の声も理解できますし、同時に、ではどうやって自助努力すればいいの?と思うのですが、そうした部分には何か言及されてないんですか?」

竹下: 「各3つの時期に対して、指南しているのと同時に、つみたてNISAやiDeCoの積極的な活用を進めています。またそうした金融商品のアドバイスをするアドバイザーの充実についても以下のように言及されています。

個々人のライフスタイルが多様化する中、金融商品・サービスも多様化してきている。こうした多様な商品・サービスを個々人が自身の力のみで選ぶことについては、人によって困難が伴うことも想定される。この観点から、個々人に的確なアドバイスができるアドバイザーの存在が重要である。現状では、その役割は主として本人に一番身近な金融機関などが担うことが想定されるが、業態ごとの商品・サービスが多様化しているため、単一の業態の金融サービス提供者が全ての商品・サービスを俯瞰したアドバイスを行うことには難しい面がある。このため、特に強く求められるのは顧客の最善の利益を追求する立場に立って、顧客のライフステージに応じ、マネープランの策定などの総合的なアドバイスを提供できるアドバイザーである。

北里さん:「そうですよ、いきなり自助努力しなさいといわれても個々人レベルでそうした対策ができるわけないですよ!」

竹下: 「実は、今回のこの金融庁の発表がなされる前に、私は、東京で行われた、金融庁と厚生労働省の実務者レベルでの勉強会に参加させてもらっていたんですが、いきなり自助努力をうたっても、それはかなり難しいことは国もわかっているようで、私たちのようなライフプランアドバイスやファイナンシャルプランアドバイスを提供する人たちへの協力を求められたような内容の勉強会になっていました。どこかの金融機関に属したアドバイスではなく、総合的なアドバイスができる人材を国はあわせて求めている気配でしたね」

村津アナ:「今回の報告書というか、指針案ですが、こうしたレポートを公に、しかもこのタイミングで発表するには、やはり理由があるんでしょうね」

竹下: 「村津さんがおっしゃる通り、このタイミングでのこうした発表は、現状的にも、そして時間的にもぎりぎりの様相があるのだと思います。最初にお伝えした、夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみ・無職の世帯では、月平均で約5万円不足しているという試算、さらに20~30年生きるとすれば、累計で1300万~2000万円不足するとの推計でしたが、そこにはまだ追記があって、「支出については、特別な支出(例えば老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用など)を含んでいないことに留意が必要である。さらに、仮に自らの金融資産を相続させたいということであれば、金融資産はさらに必要になってくる。合わせて、早い時期から生涯の老後のライフ・マネープランを検討し、老後の資産取崩しなどの具体的なシミュレーションを行っていくことが重要であるといえる。と記されています。本当に待ったなしの状態にあるのかもしれません」

北里さん:「延長雇用の問題や、女性の社会進出支援、一億総活躍支援、副業を認める企業が増えているなど、日々のニュースのひとつひとつが今日の話に繋がってきますね」

竹下: 「今回のレポートの「はじめに」の欄の最後に、こんな文章があるんです。「今後とも、金融サービス提供者や高齢化に対する企業、行政機関等の幅広い主体が、今回の一連の作業を出発点として国民に本報告書の問題意識を訴え続け、国民間での議論を喚起することにより、中長期的に本テーマにかかる国民の認識がさらに深まっていくことを期待する。」まさに今日のような内容をラジオの前の皆さんにお伝えしていくこと、議論を喚起していくことを国は何よりも求めているのだと思います」

北里さん:「このコーナーでは、今後も最新の情報を取り上げながら、少しでもラジオの前の皆さんの暮らしに役に立つお話をお届けしていきたいと思います。スタジオにはトータルライフコンサルタントの竹下健治さんでした」

 

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竹下健治

大手信託銀行~カーリース会社を経て、スカウトにて生命保険業界に転身。 その後、大手外資系生命保険会社にてエグゼクティブランクになったことを機に独立、財務資産コンサルタント...

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